緑の葛藤

在る
いつまでも
どこまでも
このままで
疎ましいものではないか

居る
いつまでも
どこまでも
このままで
親しいものではないか

来る

ここに
新たな兆し
望ましいものではないか

女はいつまでもそのままではない
男はどこまでもそのままではない
疎か親か希望かは計り知れないが
受け継ぐものの緑の葛藤は
涙が枯れても地下茎に生き・・・

見もの見世物

鋏虫に挟まれて
健気に振立てる
飴色の音叉から
モーツァルト
弾きだされるや
愛憎は悲喜劇に
こりゃ剣呑剣呑


蜂の巣駆除隊は
勇猛に攻立てる
黄金の両顎から
べートーベンを
注ぎこまれるや
熱情の即興劇に
そりゃ剣呑剣呑


百足に抱かれて
激烈に縁取られ
赤銅の長鞭から
ブラームス語り
巻付く抒情詩に
ありゃ

剣呑剣呑

申し子牽牛

偶蹄の鈍重な歩調が地を刻む夕暮れの薄闇
金星を沈黙させ一日の反芻をする牛頭人
圧倒的な存在感を持って予言する人面牛身
暮田島の地下迷宮で蓑多売巣は闇を集積し
神降ろしの霊媒たる件が光明を微塵に砕く
回路は蟻亜戸禰の糸を辿る男に暗殺を許し
予兆に戦く無辜の民は耳を欹て妄言を肯う


偶蹄を蹴り上げ天空をとよもす白昼の祭典
火星からの接触が刻々肌を理不尽に傷めて
闘牛士たちが血と砂とを等分に狂乱させる

連綿と紡がれてきた不可視の布目をここに物語らん
天蚕の勁い糸と地蚕の嫋やかな糸とが経と緯に織り
嵐の後の楢櫟の林を尾根道に振り分ける南の斜面に
山繭は吹き落とされて粗い網の目を落ち葉に横たえ
晴れ上がった早朝に摘まれる桑の葉脈が東西に走り
陽炎に揉まれ通気性の天井裏で蚕たちの口角を導く