肖像のそのひと     

眦を決しているわけではない
はじけた莢から熟れた鬼灯が覗くように
細められた一点の濁りもない目が
白地にはめこまれた瞳を見据えて
そのひとの貌をみる者に向けられている
その焦点はみる者にだけ結ばれることなく
背後の時空にまではるかに伸び広がって
たゆたい 恣意的に揺れうつろっている
そのひとはみる者のさまざまな連想に触れ
意見や判断やましてや反論などとは無縁の
平穏なまなざしを操り みる者の心を象り
人生の意味や夢の象徴へと問答を導く
朱色の被布に包まれたそのひとの貌は
強いて語るべき何ものをも収めず
かつて語られたいかなる意をも蔵さず
唯 無心に開かれたままそこにある
苛烈な光線に灼かれたその表情は
虚偽と粉飾に彩られた者たちに向けられ
正義と朴訥を秘匿する者たちにも向けられ
常に等しく公平な姿を保っている
はるかな来歴の途次にかつてあった人
はるかな地平へ踏み出す人に面して

神々の酒宴

強力が揚げる荷
医薬品と燃料と
生活必需物資だ
郵便局長が運ぶ
鮮魚やアワビは
絶好の肴となり
夕陽が沈む島を
海の御神体とし
ここ山の神社で
今日一日の安全
明日の祈願をし
杯を傾けるのだ


地上の生業から
痴情の縺れまで
交わされる話は
酌めども尽きぬ
弱虫どもの語り
何某の母ちゃん
何処どこの野郎
それぞれの出入
過ぎ去ったこと
現在まっただ中
やがて行き着く
それぞれの結末

阿鼻叫喚

服わぬものの系譜
山から山への渡り
海を越えゆく者を
率いる山窩やぞう
波きる海賊かしら


和むものの本拠地
流離した千万の由
系累の血脈を肌に
異国に眠るねぞう
丘上の家族かしら


闘うもの達の拠点
城を枕に神出鬼没
一所を墨守する利
懸命に突貫する益
兜のぞくさかしら

みんなで寄り合って話そうよ

六十兆の細胞は
即座に跳躍できる
地に着いた途端
牛馬になるもの
鳥や蛇になるもの
全て場に応じつつ


一瞬の闇は
一瞬の光と
等価ではない
まずは見えるもの
そして見えないもの
個々の場に応じつつ


五十億年の惑星が
今を保存したいと
天に願う祈りをこそ
エスブッダシャカ
マホメットコウシら
修羅場に応じつつ