氾濫原

sokuze2007-09-08

 水流水量共に圧倒的な多摩川の姿を知った。
 

 台風9号の去った調布染地の多摩川べりではあったが、流木の、小片は箸、大木は電柱大の集積が展開し、
自動車のタイヤや、野球・テニスのボール、サッカーボール、洗剤入れ、ペットボトルなど様々なものが散在、あるいはその間に紛れ込み、
午後の日差しに焼かれて沈黙し、流れ着いた諸々の事物の上に烏の姿が黒い点々となって並び、
白鷺は一羽一羽が鋭く川面を注視しては飛び立って魚をねらい、
鳩たちは水門のコンクリート上で吹き寄せられた何かを餌にして群れ集い、
人々は土堤の上のサイクリングコースを徒歩で、あるいは自転車で様々な格好・速さで移動し、
皆日常の景観とは違う多摩川に魅入られたかの如く川と対面しつつ、川岸を舐めるように動きまわるのだった。
 

 そんな中、住民とおぼしき人が一人二人と占拠・あるいは再占拠を確保するのか、倒れた作物を引き抜き、不要なものの片付けをするべく、妙に落ち着いたそぶりでタバコに火をつけていたりするのが否応なしに目に入るのだった。
 川幅は未だ見たことがないほど異様に広く、濁流には流れ下る様々なものが見え隠れし、その上を余波ともいえる突風が渡っていくのだが、光は明らかに秋であるにもかかわらず、ジリジリと螺旋込むように底意地の悪い湿気と汗を人に齎し、大洪水の後はかくなるものかと思わせる不吉な天の配剤を見せつけながら、眼前の残骸をより克明に際立たせるのであった。