詩惹句

sokuze2008-01-10

「人間の声が
 残るだけだ」
人がいる間は
ほんとうの獣も
ほんとうの鳥も
姿を見せない
獣じみた
鳥の如き
声だけが
人と人との間に
吐かれ転がり
咽び呻いて!


ギリシャ人の
 桃源のハケを見に」
万物を流転させて
ヘラクレイトス
じわじわと滲みる
遊水池を凝視して
育つ生命を見た
蜻蛉の幼虫
真鴨の番い
水紋だけが
空中と水中の間に
緩み広がり
和み揺蕩って!


「永遠だけが残った
この時間のないところに」
50万年の死角に
蹲る北京原人
石器を削る音が
倦まず弛まず響く
黄河の畔からここ
多摩川の葦原まで
阿っという産声詩に
衣食住文明の進歩と
科学技術の発展とを
脳髄ごと刻んだ挙句
吽っという遺言で!


西脇順三郎詩集『礼記』より「  」内の語句を引用しました。