脱落したそれらを
記載する為の筆と
竹筆を立てる筆筒
水滴と硯と洗皿と
が用いられぬまま
湖州製正冬純紫毫
賊草文砥部焼筆筒
銀山焼仏手柑水滴
太平有象銘歙州硯
見捨てられている


凋落したあれらを
記憶する為の気力
魅力と腕力と共に
内奥部で眠る海馬
螺旋状に渦巻く心
土と木と紙の家屋
直線裁断する和服
米穀類と魚梅干豆
衣食住の洗練度合
嗅ぎ分けられない


没落したどこもが                                 
記述する為の意匠
故郷の古戦場から
異郷の古墳までは
残照に染められた
文書の系図である
真田幸村上田城
石垣礎石と六文銭
流転の族譜だけが
聞きとれずにいる