湧玉池

 富士山本宮浅間大社の湧玉池には、毎秒3.6kl・水温13℃の水が湧出し、禊場が設けられている。水は富士山御霊水として飲むことが出来る。
 日本各地の山の水は、土や岩の性質・樹林の性質によって様々な味を含んでいる。
 山梨県甲斐大泉の川俣渓谷を遡ると苔むした大岩から一筋の水が沢に向かって弓なりに噴出しており、飲むと太古が偲ばれる含み味があり、鮮烈であった。だが、30数年を経た今なお、渝わらぬ味を含みもっているかどうかはわからない。縄文遺跡が点在するここ八ヶ岳南麓は、佐久海ノ口、野辺山など水量豊富な高原で、山の水を醸造する数多くの酒蔵がある。
 鳥海山の秋田側矢島口からさらに北へ回った避難小屋の前に滾々と湧き出している清水がある。この水で珈琲を淹れてもらって飲んだ。橅や櫨、七竈等の紅や黄の葉が鳥海山麓の全周を染め上げた10月、錦秋を追って車体を岩に削られながらの中腹の山道を一周したのだった。途次山頂を見上げながら、マグカップで頂戴した珈琲は清冽そのものだった。